特定の業種や分野に関わる企業において、市場にたくさんの競合企業が存在することから「うまく他社と差別化をはかれない」「市場で有利なポジションを築くにはどうすればよいのだろう」と思う人も多いのではないでしょうか。

特定分野において、顧客の多様化するニーズを幅広く満たし、業界でのシェアの独占を狙う企業は「カテゴリーキラー」と呼ばれます。

今回は、カテゴリーキラーの概要を説明したうえで、カテゴリーキラーの強みやデメリット、代表的な企業例について説明します。

そもそもカテゴリーキラーとは?


カテゴリーキラーとは、英語の「Category killer」をカタカナで表記した言葉で、「特定の商品分野に限定して、豊富な品揃えと低価格で商品やサービスを販売する大型量販店」を指します。家電量販店や住居用品専門店、玩具専門店などの店舗が例として挙げられます。また、「killer(殺し屋)」という言葉が含まれているように、競合企業から顧客を流入させて大きなダメージを与えるという意味もあります。

カテゴリーキラーの企業は「特定ジャンルの商品を低価格で大量に仕入れ、安く販売する」という薄利多売の手法を用いているため、小売店やショッピングセンターのような大幅な値引きが難しい企業よりも低価格で商品やサービスを提供することが可能です。加えて、大手のカテゴリキラーでは多数店舗を広域にチェーン展開していることも多く、大規模なスケールで商品を販売できる仕組みがあります。そのため、場合によっては競合他社を市場から撤退させるほどの影響を与える場合もあります。

カテゴリーキラーとは対照的に、販売する商品やサービスのジャンルを限定せず、多種多様な品揃えになっているのが百貨店や総合スーパーなどの業態です。百貨店に行けば手に入れたいものが1店舗のみでも一通り手に入れられることも多く、顧客にとって買いたい商品のジャンルが複数にわたる場合は、このような業態の店舗へ行くメリットが大きくなります。

しかし、百貨店などにおいてはカテゴリーキラーのように同じ分野の商品を大量に仕入れられないので、商品単価が高くなりがちです。この場合、「なるべく支出を抑えて目的とする商品を手に入れたい」と思う人はカテゴリーキラーの店舗に流れやすくなるため、百貨店の集客数や売上に打撃を与える可能性があります。

カテゴリーキラーの強みとは?

カテゴリーキラーには、次の3つの強みがあります。

カテゴリーキラーの3つの強み
  1. 特定の分野において他社にない品揃えを提供できる
  2. 仕入れコストを抑えて事業運営できる
  3. 競合からシェアを獲得しやすい

以下では、これらの強み・メリットについて説明します。

特定の分野において他社にない品揃えを提供できる

先述したように、カテゴリーキラーは、特定の分野において他社以上の品揃えになっているのが特長です。店舗の規模も大きく、百貨店やショッピングセンターでは揃えられない商品まで取り揃えているため、顧客が購入したいと思っているジャンルとカテゴリーキラーが扱う商品ジャンルがマッチしていれば、たいていのニーズを満たせます。

また、カテゴリーキラーの店舗に行けば、同じ商品でも複数の候補を比較して選ぶことが可能です。たとえば、ドライヤーを手に入れたい場合、百貨店では商品が限られがちですが、家電量販店に行けば豊富な種類の中から好みのドライヤーを選べます。好みの商品を選ぶことで満足度の高いショッピング体験ができるのも、カテゴリーキラーのメリットです。

仕入れコストを抑えて事業運営できる

豊富な商品を揃えているカテゴリーキラーはそれだけ多くの商品を仕入れるため、仕入れコストを抑えて事業運営できます。1つひとつの商品価格が安いので得られる利益は少ないですが、仕入れ価格を抑えられるぶん、店舗に残る利益を維持しやすくなります。

また、カテゴリーキラーによっては、近隣エリアに複数の店舗を構えているところもあります。在庫を店舗間で共同管理すれば、在庫を抱えるリスクを抑えて事業運営できるので、さらに多くの利益を残せます。

在庫管理の基本や仕組みについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

在庫管理のやり方を一から解説!必要な知識やコツも紹介

競合からシェアを獲得しやすい

モノが多くの消費者に行き渡った現代は、新規で市場に参入してもすでに多くの競合が存在しているため、シェアを獲得するのは困難です。しかし、カテゴリーキラーは特定の分野に注力する戦略を取るため、競合が多い市場でも有利なポジションを築けます。

また、販売する商品やサービスを特定のジャンルに限定すれば、「このジャンルであれば○○社」のようにブランディングすることも可能です。ニーズが生じると同時に企業を連想してもらえるので、広告宣伝費を抑えて顧客の認知を拡大できます。

カテゴリーキラーのデメリットとは?

他社よりも有利なポジションで売上を伸ばせるカテゴリーキラーですが、次のデメリットもあります。

カテゴリーキラーのデメリット
  1. 高額商品を販売しにくい
  2. ほかの分野への切り替えが難しい
  3. 幅広いエリアに店舗を展開する必要がある

以下では、これらのデメリットについて詳しく説明します。

高額商品を販売しにくい

先述したように、カテゴリーキラーの店舗は、商品1つひとつの価格を抑えているため、「安価で商品を手に入れられるところだ」というイメージが顧客に定着している場合があります。

そのため、新たに高額商品を販売しようと思っても簡単には売上を伸ばせない可能性があります。たとえば、「ファストファッションブランドを展開する企業が、高価格帯の商品ラインナップも用意したけれど、なかなか売上が伸びなかった」という事例が挙げられます。

また、顧客の好みなどにより差別化が図れるアパレルなどと違い、家電量販店などのように競合とニーズや取り扱う商品の差別化が難しい企業では、単なる価格競争に陥ってしまい、利幅を薄くしてしまう可能性もあります。

高単価の商品を販売するのが難しい場合でも、「ついで買い」や商品のグレードを挙げてもらうなどの戦略によって客単価をあげることは可能です。これらは「クロスセル」や「アップセル」などと呼ばれ、さまざまなアイデアがあります。以下の記事で詳しく解説しているのであわせてチェックしてみてください。

アップセル・クロスセルとは?具体的な方法やポイントを解説

ほかの分野への切り替えが難しい

特定のカテゴリーに絞って商品やサービスを販売するカテゴリーキラーは、顧客にブランドイメージがある程度定着しているため、ほかの分野への切り替えが難しくなります。

たとえば、「家電製品を販売するカテゴリーキラーが、途中で食料品店に切り替える」といった場合、すでに「家電製品が安い店」というブランドイメージが定着している可能性が高いことから、食料品店に切り替えてもうまく売上を出せないでしょう。

もしほかの分野に事業を切り替えるのであれば、同じブランドとして事業展開するのではなく、別ブランドや別会社をつくって市場に参入したほうがよいかもしれません。

幅広いエリアに店舗を展開する必要がある

カテゴリーキラーが扱う商品は、1つひとつの価格を抑えているため、なるべく多くの顧客に購入してもらわなければ利益を伸ばせません。そのため、カテゴリーキラーとして事業展開する場合、幅広いエリアに店舗を展開する必要があります。

たとえば、「家電量販店を日本全国に出店する」「ファストファッションを日本国内だけでなく海外に出店する」のような戦略が求められます。うまくいけば多くの顧客を囲い込んで売上を伸ばせますが、それだけ出店費用や維持費用がかかるので、場合によっては損失が大きくなります。

複数店舗を展開する手段としては「フランチャイズ」もよく取り入れられています。以下の記事では飲食業界を例にフランチャイズの仕組みについて解説しているので、あわせてチェックしてみてください。

フランチャイズとは?飲食店が加盟するメリットや本部の選び方を解説

代表的なカテゴリーキラーの企業例

カテゴリーキラーについてさらにイメージを深めるには、カテゴリーキラーとして多くの売上を出している企業を参考にすることも大切です。

以下では、代表的なカテゴリーキラーの企業例を紹介します。

家電量販店

国内で有名なある家電量販店は、全国各地にチェーン展開することで、1兆円を超える売上を出すことに成功しています。値段が高く購入ハードルが高くなりがちな家電製品ですが、この店舗では相場よりも安く商品を販売していることから、消費者に「家電製品ならこの店舗」と思われるほどブランド力を高めたのも特長です。

また、「他店より少しでも価格が高い商品があれば、その価格と同じ金額に値下げする」という戦略を取っているのも、多くの顧客を獲得できている要因です。さらに、郊外に出店して事業拡大にかかる費用を抑えつつ大きな店舗面積を確保しているところも、カテゴリーキラーならではの戦略だといえます。

参考:攻めの経営!カテゴリーキラーは、強いのか、弱いのか

紳士服販売店

紳士服を販売する店舗はたくさんありますが、1964年に広島で創業したある企業は、紳士服の製造と販売を自社でおこない、店舗を全国各地に広げたことで業界内のシェアを広げています。

この企業は、先ほどの家電量販店と同様に「紳士服」という特定のジャンルに絞って事業展開したのが特長です。他店を寄せ付けないほどの低価格で商品を販売したことから、多くの顧客を獲得することに成功しています。また、出店エリアを郊外にすることでコストを抑えたのも、利益を伸ばせている要因です。カテゴリーキラーとして競合店と大きく差をつけたことから、業績を拡大し続けています。

参考:百貨店が苦戦しているのは…②カテゴリーキラー2

おもちゃ販売店

1957年に設立したアメリカ発祥のおもちゃ販売店は、広大な土地に面積の広い店舗を構えているのが特長です。店舗が広いためそれだけ多くの品揃えを実現できており、「この店舗に行けばほしいおもちゃが見つけられる」と思われるほどブランド力を高めることに成功しました。

また、競合他社では実現できない低価格でおもちゃを販売したのも、シェアを拡大できた要因です。現在はインターネット上での販売にシフトしつつあるため店舗は縮小傾向ですが、カテゴリーキラーとして業界に大きな影響を与えたことに間違いないでしょう。

参考:トイザラスに見る「圧倒的強者」の転落パターン

まとめ

今回は、カテゴリーキラーという概念を説明したうえで、カテゴリーキラーの強みやデメリット、他社の事例について説明しました。

新たに事業展開する場合、競合が多い分野では売上を出すのが難しいかもしれません。しかし、カテゴリーキラーとして特定のジャンルに絞って事業展開すれば、業界に革新を起こして多くの顧客を獲得できる可能性があります。ここで説明した内容を参考にして、市場で有利なポジションを築けるマーケティング戦略・事業戦略を考えましょう。

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