マーケティングにおいて、消費者のニーズを理解することはとても重要な要素です。しかし表面的なニーズだけを理解していたのでは、競合他社との差別化に大きな差をつけることは難しくなってきます。そこで登場するのが「消費者インサイト」という概念です。今回は、消費者インサイトについての意味や重要性、活用事例を紹介します。

マーケティング戦略におけるインサイトとは?

インサイトという英語を直訳すると、「洞察力」や「見抜く力」と表現されます。このことから、インサイトをマーケティング戦略においては「人を動かす隠れた力」という意味で表されます。具体的にはどのようなことを指しているのかを説明していきます。

消費者も気づかないニーズ

マーケティングにおいてのインサイトとは、消費者自身もまだ気づいていない隠された心理のことを示します。そのため、マーケティング側が洞察力に基づいて消費者の生活環境や状況を把握し、それによって得られた消費者の本音を理解することで、最終的に消費者の行動を働きかけるという流れが必要になります。消費者の本音が行動へと移行する理由がわかれば、それをもとに購買意欲へと促す商品・サービスの開発につながりやすくなります。

インサイトと顕在ニーズ・潜在ニーズの違い

「消費者自身が気づいていない隠された心理」として混同されるものに「顕在ニーズ・潜在ニーズ」というものがあります。これらには明確な違いがあります。たとえば、「顔の肌荒れを直したい」という顕在ニーズがあった場合、その奥には「きれいになって自信を持ちたい」という潜在ニーズが存在しています。潜在ニーズとは、その「きれいになって自信を持ちたい」という欲求を自身がまだはっきりとは気づいていないか、見過ごしている可能性がある状態であり、インサイトとは、それらの欲求を把握できていない状態を表します。

消費者インサイトを見つけることの重要性

マーケティングをするうえで、消費者の心理を洞察して消費者インサイトを明らかにすることは重要なポイントとなります。ここでは、消費者インサイトを見つけることの重要性について、3つの理由を紹介します。

消費者インサイトを見つけることの重要性
  1. 新規需要の開拓
  2. 競合との差別化
  3. 市場での認知度

新規需要の開拓

消費者インサイトを分析して明らかにすることは、消費者の真の心理に基づいた新規需要の開拓や、商品・サービスの開発につながります。現代ではさまざまな情報やものが飽和状態となっており、すでに明らかになっているニーズだけをたどっていては、競合他社との差別化や新たに付加価値をみつけることが難しくなっています。そのため、鋭い洞察力を働かせることで今まで表には見えていなかった消費者の隠れた心理を見つけ、需要をあらたに創造していく能力が重要となるのです。

競合との差別化

先にも説明したとおり、すでに明らかになっている「顕在ニーズ」や「潜在ニーズ」はすでに多くの商品・サービスに反映されています。そのため、それだけをもとに競合との差別化を図ることは非常に難しいでしょう。そこで、いまだに顕在化されておらず、競合他社もまだ気づいていない消費者の真の本音である消費者インサイトを発見することができれば、消費者が本当に求めている商品・サービスの提供や、結果として競合他社との差別化の成功につながります。

市場での認知度

消費者インサイトとは、消費者自身もまだ気づいていない隠れた心理であるため、その心理をとらえた商品・サービスを初めて利用した際に、消費者自身が今まで気づいていなかったり見過ごしていたりした感情を動かされ、商品・サービスに対する大きな共感を生む可能性も考えられます。共感が口コミや紹介へとつながることで、市場での認知度が高まるだけでなく、頭に思い浮かぶ商品・サービスとして名前があがる純粋想起率の向上も期待できます。

インサイトを見つける手段

消費者インサイトを理解するには洞察力や人を動かす力が必要となりますが、実際に消費者インサイトを発見するには、どのような手段があるのでしょうか。ここではインサイトを見つける手段について段階ごとに解説していきます。

インサイトを見つける手段
  • インタビューやSNSでの情報収集
  • データの分析
  • インサイトの「見える化」

インタビューやSNSでの情報収集

消費者インサイトを見つけるためには何よりも消費者の声を集めることが重要です。複数の消費者に対してインタビューを行ったり、SNSに投稿されている消費者の声を収集したりすることが主な方法です。インタビューは、定性調査といって、数値化することができない消費者の気持ちや価値観などを言葉として収集するのに効果的な方法です。また、SNSの投稿については、商品・サービスがどのように使われているか、どのような属性かといった具体的な状況を把握することができます。

データの分析

ある程度の情報収集ができたところで、それらのデータを分析します。分析には、数値で表せる定量データと、数値化が難しい定性データの関係性を見あわせながら行います。定量データとは自社サイトのアクセス履歴やアンケート調査の結果などが主なもので、全体的な傾向を知るのに有効です。また、定性データは先に紹介したインタビューなどで明らかになった消費者の声などから取得できたデータを指します。これまで隠れていたなんらかの傾向や気づきがないかを細かく見ていくとよいでしょう。

インサイトの「見える化」

インサイトの見える化とは、具体的にはペルソナの設定と、消費者の状況や思考を図にあらわした共感マップの作成のことを指します。ペルソナ設定は、仮想の消費者情報を設定することで、顧客目線になって商品・サービスを検討していくことが可能です。また、消費者の状況や思考を図にした共感マップは、消費者が感じていること、見ていること、聞いていることなどの要素を、設定したペルソナの視点で図であらわすことによって、あらためて俯瞰で感情や行動傾向を見ることができるため、インサイトをより具体的に把握することができます。

マーケティングにインサイトを利用する際の注意点

自社の商品・サービスのマーケティングに消費者インサイトを活用していくにあたって、いくつかの注意すべき点があります。ここでは、マーケティングにインサイトを利用する際の注意点について2つ紹介します。

マーケティングにインサイトを利用する際の注意点
  • エビデンスを示すのが難しい
  • 訴求方法によっては悪い印象を与える

エビデンスを示すのが難しい

消費者インサイトとは、これまでも解説してきたように、消費者さえ気づいていない隠れた心理を指します。そのため、これまで収集した消費者インサイトが本当に正しいものかどうかの完全なエビデンスを提示することは難しいともいえます。実際のところ、マーケティング活動においての消費者インサイトの活用は、まだまだ手探りで行われていることも多く、自社で取り入れる場合にも仮説をたてて実践・検証を繰り返しながら、データを積み重ねていくことが最初の取り入れ方として適した方法となります。

訴求方法によっては悪い印象を与える

実際に消費者インサイトを商品・サービスの開発や広告での訴求に役立てていく場合、消費者の隠された心理をもとに不安をあおったり、不必要に消費者のコンプレックスを刺激したりするようなダイレクトな訴求をしてしまうと、かえって自社の商品・サービスや自社自体のイメージが悪くなってしまうことも考えられます。進めようとしている訴求が自社にとってマイナスにならないかを見極め、あくまでやんわりとした訴求でとどめておきましょう。

インサイトマーケティングの事例


まだ手探り状態とされる消費者インサイトマーケティングですが、企業によってはすでにうまく消費者インサイトを取り入れ、成功させている事例もあります。最後に、2つの企業のインサイトマーケティングの事例を紹介します。

P&G「ファブリーズ」

部屋のにおいやタバコやペットのにおいを解消する消臭・芳香剤として知られるP&G社の「ファブリーズ」は、消費者インサイトを活用したマーケティングにより、速乾性のある消臭除菌という製品価値を確立しています。2020年ごろから除菌効果の期待できる商品が注目される傾向があり、布用消臭スプレーの需要が高まった分、離脱者も生じるという状況になりました。離脱した理由を調査してみると、「ソファーにスプレーをするとすぐに座れない」「濡れていると菌が発生して嫌な匂いがしそう」といった声が挙げられたのです。

このことから、スプレーした部分がすぐに乾く布用消臭スプレーが欲しいのではないか、という消費者インサイトに着目しました。そして、ノズルを小さくすることでミストの粒子の直径を約半分にして布に浸透しやすく、既存品よりも早く乾くという訴求を行ったところ、既存ユーザーのみならず、一度離脱したユーザーにも注目され、ヒットを生み出すことに成功したのです。

参考:「ファブリーズ」の成長戦略とは!?P&Gジャパン執行役員ホームケア事業責任者に聞く! _小売・流通業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】

日清「カップヌードルPRO」

日清食品グループの「カップヌードルPRO」は、たんぱく質を多く配合し、高たんぱく低糖質の国内初のたんぱく質強化カップ麺として好調な売上を示しています。好調な売上に結びついた背景には、近年、栄養素としてのたんぱく質が注目され、健康維持のために摂取する消費者やたんぱく質市場の増加があります。日清食品グループではその消費者インサイトを探り、消費者それぞれの隠された心理である消費者インサイトに適応するような製品の開発・コミュニケーション・販促方法を展開し、「カップヌードルPRO」の好調な売上に結びつけることに成功しました。

参考:日清食品グループ

まとめ


今回は消費者インサイトについて、語句の説明とその重要性、活用事例について紹介しました。

消費者インサイトとは、顕在ニーズや潜在ニーズとは異なる、消費者自身もまだ気づいていない隠された心理を指します。したがって、その心理を把握し、商品・サービスに活かすことができれば、競合他社との差別化につながり、消費者自身も気づいていなかった感情を動かされることで、認知度を向上させることができます。

ただし、消費者インサイトは数値化が難しく、言葉や感情を収集したものであるためエビデンスの提示が難しく、訴求の方法によっては商品・サービスにネガティブな印象を与えてしまうことになりかねません。そのため、まずは多くの消費者の声を集めて分析や検証を繰り返し、少しずつ実績を積み上げていくことが賢明といえます。

消費者インサイトを上手に自社のマーケティングに取り入れ、消費者が真に求める商品・サービスの開発につなげてみてはいかがでしょうか。

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