近年、市場のニーズが多様化するとともに、さまざまな企業が複数ジャンルの商品やサービスの開発を進めています。このことから、競合と差別化を図って売上を伸ばすのは一層難しくなりつつあります。

そのような状況で顧客に価値を感じてもらう手法として、「バリュープロポジションの活用」が注目されています。

本記事を読んでいる人の中には、「バリュープロポジションがどのような概念か分からない」「どうすればバリュープロポジションを作れるか知りたい」という人も多いのではないでしょうか。

この記事では、バリュープロポジションの概要や構築するメリット、実践している企業の事例について説明します。

そもそもバリュープロポジションとは?

バリュープロポジションは、顧客が求めているものに対して自社にしか提供できない価値であり、顧客が商品・サービスを購入する理由になり得るもののこと
そもそもバリュープロポジションとは、「顧客のニーズが高く、かつ競合他社が提供できていない独自の価値を言語化したもの」です。

つまり、顧客が求めているものに対して自社が独自で提供できる価値のことを指します。それらは結果的に、競合の多い市場において顧客が自社の製品やサービスを選ぶ理由になり得ます。

実際には、文字を通して顧客に価値を認識してもらうことになるので、「キャッチコピー」や「セールスコピー」と混同されがちですが、バリュープロポジションは必ずしもお客様に向けられたものとは限りません。

バリュープロポジションは、顧客に商品やサービスの価値をアピールするだけでなく、社内で共有して新商品の開発やマーケティングに活かすという目的でも活用されます。組織で、自社が持つ価値に対する認識を揃え、統一感を持って商品開発やマーケティングをすれば、より顧客のニーズに沿ったアプローチがしやすくなり、集客数や売上アップにつなげていくことができます。

バリュープロポジションが注目される背景

バリュープロポジションが注目されている背景には、市場の多様化やグローバル化、ニッチ化などが挙げられます。顧客の生活が多様化し、さまざまなニーズにあふれている現代では、市場において製品やサービスを提供する企業も多く存在します。さらにインターネットの普及なども相まって、顧客の選択肢は広がっています。

その結果、顧客にとっては企業やメーカーのネームブランドだけでなく、自分のニーズに対してより価値があるものかどうかという点が、製品やサービスを選ぶ1つの判断基準になっています。そのため、ただ競合他社との差別化を図るのではなく、自社がもつ独自的な価値が、顧客目線では競合よりも上回っていることが重要になります。

バリュープロポジションが大切な理由

バリュープロポジションを考えるということは、顧客に提供できる自社にしかない価値を見出すことになります。その過程において、自社の製品やサービスの現状を把握したり、市場やニーズを見直したりするきっかけにもなり、マーケティング的な側面としてもバリューポジションは大切になります。以下では、バリューポジションを考えることがなぜ大切なのか、3つの理由を解説します。

バリュープロポジションが大切である3つの理由
  • 新たな顧客のニーズを発見できる
  • 企業と顧客が考えるニーズのズレを見出せる
  • 自社の強みを明確にできる

新たな顧客のニーズを発見できる

先述したように、バリュープロポジションは顧客に価値を感じてもらうだけでなく、企業の商品開発やマーケティングにも活用できます。そのため、バリュープロポジションを作ると、これまで気づかなかった顧客のニーズを発見できる可能性が高まります。新たなニーズが見つかればそれだけ多くの顧客を獲得できるため、集客数や売上をさらに伸ばせるでしょう。

たとえば、バリュープロポジションを作る過程で、「洗濯にかかる時間を短縮したい」「店舗に足を運ぶ手間を省きたい」といった顧客のニーズを発見できる場合があります。そのニーズに沿って商品やサービスの開発を進めれば、効率的に売上を伸ばせるかもしれません。

企業と顧客が考えるニーズのズレを見出せる

バリュープロポジションの活用場面は、商品やサービスの開発だけではありません。既存の商品やサービスについてバリュープロポジションを考えれば、企業と顧客が考えるニーズにズレを見出せるため、早期に改善できるかどうかが売上にも影響する可能性があります。

もし、企業が「顧客は安価に手に入る化粧水を求めている」と考えて低価格の商品を販売しても、ターゲットとする顧客が「値段が高くても使い心地や保湿力の高い化粧水が欲しい」と思っていれば、売上拡大は見込めません。このようなニーズのズレを解消し、顧客のニーズとマッチするほど売上改善も期待できるでしょう。

自社の強みを明確にできる

バリュープロポジションを考えると、顧客のニーズだけでなく自社の強みも明確にできます。

たとえば、「店舗周辺の顧客をターゲットにして地産品を使った加工食品を販売していたが、全国的にも類似する商品を販売している企業がない」という強みが発見できる場合があります。

このケースであれば、わざわざ新商品の開発に取り組まなくても、ECサイトなどで販売エリアを拡大するだけで大幅に売上を伸ばせるかもしれません。

また、「○○県産のワインなら△△店」のように、ニーズを持つと同時に店舗名をイメージできるブランド力があれば、それを活かしたマーケティングをすることで競合との価格競争を避けながら安定的に売上を出せるでしょう。

バリュープロポジションの作り方とは?

さまざまなメリットが生じるバリュープロポジションですが、メリットを活かして企業の売上アップにつなげるには、正しい作り方を知っておく必要があります。バリュープロポジションを作るときは、まず次の優先順位を意識しましょう。

  1. 顧客が望む価値
  2. 自社が提供できる価値
  3. 競合優位性

この順番にそれぞれの項目について深堀りしていきます。

また、実際にバリュープロポジションを作るには「バリュープロポジションキャンバス」を作成しましょう。バリュープロポジションキャンバスとは、「ターゲットの特徴を明確にしたうえで、抱えるニーズに応えるバリュープロポジションを見つけるための図のこと」です。
バリュープロポジションキャンバスの例
このような図にして顧客ニーズや自社の価値を整理することで、バリュープロポジションを考えやすくなります。バリュープロポジションキャンバスの具体的な書き方は次で解説していきます。

バリュープロポジションキャンバスの書き方

バリュープロポジションキャンバスは、顧客の理解を深めるための「顧客セグメント」(Customer Segment)と、自社が顧客に対して創造し提供できる価値をまとめた「顧客への提供価値」(Value Proposition)の2つの軸から成り立つフレームワークです。顧客ニーズや価値などそれぞれの軸における要素を埋めていくことで、ニーズと価値が合致する部分を見つけ出せます。

バリュープロポジションキャンバス作る手順は、大きく分けて次の3つです。

バリュープロポジションキャンバスの書き方
  • 書き方1:ターゲットを設定する
  • 書き方2:顧客が持つニーズを挙げる
  • 書き方3:顧客に提供できる価値を考える

ここからはバリュープロポジションキャンバスの具体的な作り方を解説します。

書き方1:ターゲットを設定する

「顧客セグメント」の軸におけるターゲット顧客を設定する
まず、上図の「顧客セグメント」に「どの顧客に対して商品やサービスを開発・販売するか」というターゲットを記載します。

たとえば「30代女性。○○県△△市のオフィスで事務職として働いており、年収は400万円で賃貸住宅に1人で暮らしている。休日は友人と食事に行くことが多い。モノを多く持ちたくない性格だが、最近友人の結婚式に行く機会が多く、ドレスを購入しようか迷っている」といった内容が考えられます。

ターゲットを設定する際は、「30代女性」のように簡潔に記載してもよいですが、最近は顧客のニーズが多様化しているため、なるべく詳細に設定するのがおすすめです。事前にヒアリングやアンケート調査などをおこなうと、設定したターゲットと実際の顧客ニーズとのズレを防ぎやすくなります。

書き方2:顧客が持つニーズを挙げる

ターゲットを設定したら、次は顧客が持つニーズを挙げます。顧客のニーズは次の3つに分けて考えます。

  • 顧客が解決したい課題
  • 顧客の利得
  • 顧客の悩み

以下では、これらのニーズを挙げる方法を説明します。

顧客が解決したい課題(Costomer Job(s))

「顧客セグメント」の軸における「顧客が解決したい課題」
「顧客が解決したい課題」とは、「顧客が日常生活でこなすタスク」です。

たとえば、先ほどターゲット設定した顧客が「結婚式用のドレスを購入する」という課題を持ったとすると、顧客には次の課題が生じます。

  • インターネットで結婚式用のドレスを検索する
  • 店舗に足を運ぶ
  • 目的とするドレスを見つける
  • 試着をする
  • 会計をする

これら1つひとつの行動が、顧客が解決したい課題に該当します。また、顧客が解決したい課題を考える際は、目的の本質を考えることが大切です。

ドレスの例で考えると、顧客は好き好んでインターネットでドレスを探したり店舗を回ったりするわけではありません。たとえば「手持ちの服で結婚式にいくのは抵抗があるので、流行のおしゃれなドレスが欲しい」といった本質的な目的が考えられます。

顧客の利得(Gains)

「顧客セグメント」の軸における「顧客の利得」
「顧客の利得」では、「さらに大きな成果を得たい」という欲求を挙げます。

先ほどのターゲットを例にすると、「流行のドレスを着て結婚式でほめられたい」「なるべく多くの種類からドレスを選びたい」のような欲求が考えられます。なるべく顧客にとって強いメリットを感じられるものを挙げるのがポイントです。

顧客の悩み(Pains)

「顧客セグメント」の軸における「顧客の悩み」
一方、「顧客の悩み」では、「なるべく少なく抑えたい影響」を挙げます。

先ほど設定したターゲットを例にすると、「出費を抑えたい」「店舗に足を運びたくない」「なるべくモノを所有・管理したくない」といったことが考えられます。前述した「顧客の利得」とは対照的ですが、このような影響を考えることで、顧客のニーズを多角的に捉えられます。

書き方3:顧客に提供できる価値を考える

顧客のニーズを明確にしたら、最後は企業が顧客に提供できる価値を考えます。顧客に提供する価値は、次の3つの視点で検討します。

  • 顧客の利益をもたらすもの
  • 顧客の悩みを取り除くもの
  • 商品やサービス

以下では、これらの視点ごとに、顧客に提供できる価値の考え方を説明します。

顧客の利益をもたらすもの(Gain Creators)

「顧客への提供価値(バリュープロポジション)」の軸における「顧客の利益をもたらすもの」と「顧客の悩みを取り除くもの」
「顧客の利益をもたらすもの」では、「顧客の利得」で挙げたニーズを満たす方法を考えます。

先ほどのターゲットを例にすると、「流行のドレスを着て結婚式でほめられたい」というニーズに対して「ブランドの最新モデルのドレスをレンタルできる」といったサービスが立案できます。

「豊富なデザインから好みのドレスを選びたい」というニーズは、「結婚式用のドレスを豊富にラインナップする」「競合よりも多彩なデザインを用意する」のような施策で満たせるでしょう。

顧客の悩みを取り除くもの(Pain Relievers)

「顧客の悩みを取り除くもの」では、「顧客の悩み」で挙げた悩みを解消する施策を考えます。

先ほどのターゲットの場合、「ドレスを手に入れるために実店舗に足を運びたくない」という悩みは、「インターネット上で注文し、自宅に配送できるようにする」などの手法で解消できます。「なるべくモノを所有・管理したくない」という悩みは、レンタルサービスを提供することで軽減できます。

製品やサービス(Products & Services)

「顧客への提供価値(バリュープロポジション)」の軸における「製品やサービス」
「製品やサービス」では、「顧客の利益をもたらすもの」「顧客の悩みを取り除くもの」で考えた施策を統合し、具体的な商品やサービス像を考えます。

先ほどのターゲットを例にすると、「他社よりも豊富なデザインが揃った宅配ドレスレンタルサービスを作り、初回は無料で利用できるようにする。2回目以降はレンタル料金に応じてポイントを付与し、次回以降の割引に使えるようにする」といった戦略につなげられます。

バリュープロポジションの成功事例を紹介

バリュープロポジションの理解をさらに深め、企業の商品開発やマーケティングに活かすには、成功事例を知ることも大切です。

以下では、バリュープロポジションの成功事例を紹介します。

スマートフォンの事例

以前の携帯電話業界では、二つ折りの携帯電話が市場で大きなシェアを獲得していました。しかし、機能性が優れたものほどボタンが多く操作も難しかったため、「もっと簡単に操作できる端末がほしい」という顧客のニーズは高まっていました。

しかし、2008年に販売されたiPhoneをはじめとしたスマートフォンの登場によってボタンが画面上に表示され、便利な機能を直感的に使えるようになったため、幅広い顧客のニーズを満たしました。iPhoneを販売するApple社は2020年の第4四半期で、携帯電話業界のシェアにトップに君臨し、多くの顧客に普及する商品へと成長しています。

参考:ソフトバンクとアップル、iPhone 3Gを7月11日より日本で発売
参考:Apple、世界スマートフォン市場で数年ぶりの首位に──Gartner調べ

掃除機の事例

どの家庭にもある掃除機ですが、パック式の掃除機は、使用期間が長くなるほど吸引力が下がってしまいます。ゴミを集めるパックを交換すれば一時的に改善しますが、メーカーや機種によってパックの種類が違ったり交換が面倒だったりしたため、決して利便性の高い商品とはいえませんでした。

しかし、1998年にサイクロン式の掃除機が登場したことによって、吸引力を落とさずに掃除機を使えるようになりました。それと同時に、紙パックを使わなくても容器にゴミを集められるので、パックを交換する費用や手間もなくなっています。価格は高めですが、性能の高さが多くの顧客から評価され、2019年には国内の掃除機市場でシェアを2位(19%)に伸ばしました。

参考:「吸引力」というフレーズの陰に隠された、ダイソンの知られざる歴史
参考:ダイソン、重量1.9キロのコードレス掃除機を発売

ビジネスコミュニケーションツールの事例

ビジネスコミュニケーションツールを提供する企業は多いですが、ある企業では、「幅広い機能や使い勝手のよい操作性」という強みを押し出すことで、2020年では国内市場で第2位にランクインし、多くの顧客を獲得しています。

そのツールでは、コミュニティを自由に作れるだけでなく、ツール上で通話ができるようになっています。また、ファイル共有やToDo管理、アラート機能やリマインダー、オンラインミーティング機能など、ビジネスに必要な機能が網羅的に使えるのも特長です。パソコンやスマートフォンなどに複数のアプリを入れる必要がなくなっただけでなく、初心者でも直感的に操作できることから、代表的なビジネスコミュニケーションツールとして多くの企業に導入されています。

参考:Slackの日本市場は世界2位、アクティブユーザー100万人【週刊Slack情報局】

配車サービスの事例

以前のタクシー業界では、顧客がタクシー会社に電話してタクシーを配車してもらい、移動距離に応じた運賃を降車時に現金などで支払うという利用方法が一般的でした。

しかし、2010年にアメリカで始まった配車サービスの登場によって、自動車の配車や経路の設定、決済といった手続きをスマートフォン1台で完結させられるようになりました。「現金が足りなくなるかもしれない」「経路の指定でドライバーとトラブルになるかもしれない」といった不安を抑えることにもつながったことから、世界中で利用者が増えています。

参考:企業価値5兆円、Uberのビジネスモデルは何がスゴいのか?

まとめ

ここでは、バリュープロポジションの概要や作成するメリット、バリュープロポジションの作り方や成功事例について説明しました。

業種によってはバリュープロポジションを作りづらいかもしれませんが、時代や市場の変化によって新たなチャンスが生まれることがあるので、変化に対して敏感になる姿勢を持っておくことが大切です。ここで説明した内容を参考にして、顧客に新たな価値を提供するとともに、市場で有利なポジションを確立して売上を伸ばしましょう。

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