在庫管理の現場において、棚卸の際にデータと実際の在庫数があわずにトラブルとなることがあります。毎回実際の在庫を目の前で数えているにもかかわらず、差異が生じてしまうのはなぜでしょうか。今回は、在庫管理でのトラブルを少しでも抑えるために覚えておきたい「理論在庫」についての解説と、在庫に差異が生じてしまう理由と差異を防ぐ方法について紹介します。

理論在庫とは?

はじめに、理論在庫について、実在庫との違いなどもあわせて詳しく説明していきます。

帳簿上での在庫のこと

理論在庫とは、売上報告書や仕入れ伝票などの帳簿をもとに商品の入出庫情報をデータ化した、数字上の在庫数のことを指します。帳簿上の在庫であるため、「帳簿在庫」、「伝票在庫」とも呼ばれることもあります。

理論在庫と実在庫の違い

理論在庫が数字上、帳簿上での在庫数であるのに対して、「実在庫」とは、倉庫などの在庫を保管しているところで実際に目視で数えた、現在実際に存在している在庫のことを指します。目視で数えた在庫数と理論在庫があっているか、帳簿上の漏れがないかというのを確認するのが棚卸業務であり、実在庫と理論在庫があっていれば、適切な在庫管理ができているということになります。

在庫差異(棚卸差異)とは?

先に説明した棚卸業務において、実在庫と理論在庫の数があわなくなることを「在庫差異(棚卸差異)」といいます。在庫差異が生じるということは、在庫が過剰であるか、または欠品しているかのいずれかの原因であり、その原因が明らかになるまで多くの時間と労力を費やす必要があるため、在庫差異を生じさせないことが理想です。

在庫差異が発生する理由

定期的に棚卸業務を行っているにもかかわらず、実在庫と理論在庫の数があわないという在庫差異が生じるのにはどのような問題があるのでしょうか。ここでは、在庫差異が発生する理由について紹介します。

在庫差異が発生する理由
  • 在庫管理ルールの不徹底
  • 実在庫と理論在庫の更新タイムラグ
  • 棚卸でのミス
  • 紛失や盗難
  • その他ヒューマンエラー

在庫管理ルールの不徹底

在庫管理業務において、ルールがあいまいであったり、煩雑だったりすると正確なデータが反映されません。例えばなんらかのトラブルが生じた際に、その場の社員ごとの裁量に任せてしまうと、社員によって管理業務スキルが異なるため、ルールの徹底が不十分となり在庫数があわなくなることも考えられます。実在庫は理論在庫とは異なり、データに残らない在庫の動きであるため、あいまいなルールのまま進めてしまうと、在庫差異が生じたときの原因追求が難しくなります。

実在庫と理論在庫の更新タイムラグ

倉庫内で実際に在庫が動いたときと、棚卸などで理論在庫を更新するときの時間差が開きすぎると、その間に数量の誤差として在庫差異ととらえられてしまう恐れもあります。

棚卸でのミス

棚卸時に起きるミスは、在庫数を目視で数える際に同じ商品を数えてしまったり、反対に隠れていた商品に気づかずにカウントしなかったり、またはバーコードでスキャンする際に複数回スキャンしてしまったりという人的ミスが考えられます。

紛失や盗難

実在庫と理論在庫を適切に管理しているにもかかわらず、実在庫の数が少なく、その原因も明らかにできない場合には、紛失や盗難として赤字計上するしかありません。会社の損害を内部の従業員の仕業だとは考えたくはないものの、「ひとつくらい」などという軽い気持ちで持ち出したり、私物化したりするかもしれないというリスクは念頭におきましょう。

その他ヒューマンエラー

データの入力ミスやデータの更新を忘れていたといったデータ管理上のミスや、発注数と納品数の間違い、複数の保管場所においてしまったなど、ケアレスと考えられる人的なエラーは、多くの商品を管理する倉庫での入出庫や、人力で行う棚卸では避けられないものととらえておく必要があります。

在庫差異の発生による悪影響とは?

棚卸などで在庫差異が生じた場合に、どのような問題が起こることが考えられるでしょうか。ここでは、在庫差異の発生による悪影響について紹介します。

在庫差異の発生による悪影響とは?
  • 機会損失
  • キャッシュフローの悪化
  • 不必要な作業の増加
  • イメージの低下

機会損失

ここでは、理論在庫よりも実在庫の数のほうが少ない場合に生じる問題です。実在庫が少ないということは実在庫を上回る発注があった場合には欠品ということになり、出荷の遅延や分納、最悪の場合には発注のキャンセルをせざるをえないことにもつながります。さらにその商品が確実に売れると見込んでいた場合、店頭陳列や納品ができなくなることで大きな機会損失となります。

キャッシュフローの悪化

理論在庫が一定数よりも少なくなったために発注したにもかかわらず、実在庫数は理論在庫よりも多く存在していたという場合、多く発注しすぎた商品は過剰在庫となります。その後で在庫が売れずに残ってしまった場合、消費期限切れや流行遅れなどで不良在庫になってしまい、保管コスト以外にも廃棄コストがかかるなど、会社のキャッシュフローに悪影響をおよぼします。

不必要な作業の増加

理論在庫上で受注したものの、実在庫が少なかったという場合、取引先や購入者に対して遅延や欠品の謝罪をしなければならなかったり、再入荷時にあらためて発送や納品を行ったりなどの通常業務ではない作業が発生します。

また、在庫差異の数字に開きがありすぎる場合は、その原因を明らかにするまで管理担当だけでなく従業員総出となって倉庫内の在庫数を数え直すことも考えられるでしょう。不必要な作業が生じることで、通常業務が遅れてしまい、生産性の低下につながります。

イメージの低下

欠品が続いて、納品遅延やキャンセルなどが生じた場合、顧客満足度の低下だけでなく、会社自体のイメージの低下につながります。

在庫差異を防ぐには?

日々、徹底して在庫管理を行っているにもかかわらず生じてしまう在庫差異を防ぐにはどのような手段があるのでしょうか。最後に在庫差異を未然に防ぐ方法を5つ紹介します。

在庫差異を防ぐには?
  • 在庫管理ルールの見直しと徹底
  • 在庫管理システムの導入
  • セキュリティの強化
  • 棚卸の手順や精度の改善
  • 日次棚卸を行う

在庫管理ルールの見直しと徹底

在庫差異が発生する理由として紹介したヒューマンエラーは完全にはなくすことはできないものの、在庫管理ルールのあいまいさをなくして見直しを図ったり、トラブルが発生した場合の指示系統を明確にするために在庫管理責任者を決めたりすることで、人的ミスを減らすことができます。また、在庫管理ルールについてのマニュアルを作成した場合は、全従業員に周知させ、常に目を通せる状態にすることを徹底しましょう。

在庫管理システムの導入

在庫管理を手書きやエクセルでの手入力で行っていると、入力ミスや更新忘れが生じてしまいます。リアルタイムで入出庫などの在庫状況が把握できる在庫管理システムを導入すれば、的確かつ迅速な在庫管理が可能になるだけでなく、手入力の作業が簡略化されることで管理業務担当者の作業軽減や、入力ミスなどのトラブル防止にもつながります。

セキュリティの強化

外部からの盗難や従業員による持ち出しによる在庫の紛失・盗難を防ぐためにもセキュリティ強化に取り組みましょう。防犯カメラを設置して入り口や目に届く場所に「防犯カメラ作動中」などの防犯シールを掲示することで、高い防犯対策が見込めます。また、従業員による持ち出しを防ぐために倉庫の入退室について管理・記録することもポイントとなります。

棚卸の手順や精度の改善

在庫管理を正確に行っているにもかかわらず、人によって数があわなかったり、数え直しなどで時間がかかったりするなど、棚卸に非効率性を感じている場合には、棚卸の手順に問題がないか、在庫数をあわせる精度をあげるには何が必要かということを担当者同士でアイデア出しをしてみましょう。具体的には商品に在庫管理用のラベルを貼ってチェック欄を設けたり、確認したことがわかるようなシールを貼りつけたりするなど、簡単に視認できて誰でも行いやすい手順を加えてみるのもよいでしょう。また、棚卸業務効率化のためのアプリを導入してみるのも効果が見込めます。

日次棚卸を行う

定期的な棚卸業務以外にも、その日の業務終了にあわせてこまめに日次棚卸を行うことで、ズレを抑え、万が一在庫差異が生じても原因究明しやすくなります。差異は前日と当日の数の違いをカウントするだけなので、定期的な棚卸のような時間を費やすこともありません。

まとめ

今回は理論在庫についての紹介と、在庫差異が生じてしまう理由や防止策について説明しました。

理論在庫とは、帳簿上やデータ上で管理する数字での在庫のことであり、実際に倉庫に存在している実在庫の管理があいまいであったり、データの入力ミスを起こしたりしてしまうことで、容易に在庫差異が生じてしまいます。実在庫の数のほうが少なければ、欠品や受注キャンセルなどの機会損失につながるだけでなく、会社そのもののイメージにも悪影響をおよぼします。

在庫差異を防ぐには、在庫管理ルールを見直して指示系統を明らかにすること、在庫管理システムを導入してリアルタイムで在庫管理ができる状態にすること、棚卸の精度をあげてこまめに行うことなどがあげられます。また、考えたくはありませんが、外部から以外にも内部の従業員による紛失・盗難を防ぐためにもセキュリティ強化も必要でしょう。

顧客に確実に商品を提供し、会社のイメージを保つためにも、理論在庫を理解し、棚卸業務の再点検をしてみてはいかがでしょうか。

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