飲食店や美容室など、顧客から予約が入っていたにもかかわらず、予約当日の時間になっても顧客が現れないという「無断キャンセル」が社会問題となっています。顧客自ら予約を入れたのに、キャンセルの連絡がないまま放置してしまうという状況は、どのような理由から生じるのでしょうか。今回は、無断キャンセルについて、発生要因や、店舗の被害を防ぐための対策について解説していきます。

無断キャンセル(ノーショー)とは?

飲食店や美容院などで予約があったにもかかわらず、予約時間になってもキャンセルの連絡がないまま客が現れないことを「無断キャンセル」「No Show(ノーショー)」といいます。ここでは、無断キャンセルによって店舗にどのような影響があり、客側にとってもどのようなことが生じるのかを解説していきます。

予約の無断キャンセルは大きな問題

予約されていたにもかかわらず、時間になっても連絡もなく現れないという無断キャンセルは、特に飲食業界では大きな社会問題となっています。経済産業省が2018年に取りまとめた「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」によると、被害額は年間約2000億円にのぼるともいわれ、さらに予約2日前までに生じるキャンセルも踏まえると、発生率は6%以上、被害額は1.6兆円とも推計されています。

無断キャンセルは飲食店に限らず、ホテルや旅館、美容院など多岐に渡っています。無断キャンセルされることで、発生するはずだった宿泊料金や飲食代、人件費、光熱費、食材の廃棄コスト、機会損失など、さまざまな損害が生じることになります。

参考:No show 飲食店における無断キャンセルの対策ガイドライン

無断キャンセルとドタキャンの違い

キャンセルにまつわる言葉として「ドタキャン」という言葉がありますが、ドタキャンとは時間直前にキャンセルすることであり、事前にキャンセルの連絡は入ります。一方、無断キャンセルの場合は、予約時間になっても客が来店するかどうかは店側にはわかりません。ドタキャンの場合はキャンセルされた時間や席を他の当日客にむけて確保することができますが、無断キャンセルの場合は時間を過ぎてもキャンセルなのか遅延しているのかがはっきりと把握できません。

そのため、店側は当日客を案内することもできず、時間や席を空けておく必要があります。店舗側にとってはキャンセルには変わりないものの、事前の連絡の有無によって適切な対応をしなければならないというのが、ドタキャンと無断キャンセルの違いです。

無断キャンセルが事件や裁判に発展するケースもある

無断キャンセルは、悪質だと考えられると事件や裁判に発展することもあります。無断キャンセルを繰り返したことで、裁判に発展し約14万円の支払いを命じられたケースや、マッサージ店経営役員が自店への予約を入れざるを得ないようにと、競合店に偽名で予約の無断キャンセルをしたとして偽計業務妨害で書類送検をされたというケースもあります。悪質だと判断され、刑事上の偽計業務妨害罪に問われた場合3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。あまりに悪質だと考えられた場合には、警察へ通報することも考えましょう。

参考:キャンセル料は取れる? 予約の無断キャンセル(ノーショー)問題の対策と法律を学ぶ|弁護士保険の教科書Biz|企業向けお役立ち法務メディア

無断キャンセルをしてしまう顧客側の理由

店舗側に迷惑や損害を与えることとなる無断キャンセルがどうして生じてしまうのでしょうか。ここでは、無断キャンセルをしてしまう顧客側の理由を主に4つ解説します。

予約したこと自体をうっかり忘れてしまった

過去には客が電話をかけたり、直接来店したりして行ってきた予約も、最近ではウェブサイトやアプリを通して気軽に行えるようになりました。店員と直接会話をすることなく、スマートフォンで簡単に予約ができることから、予約という行為自体が軽んじられて、予約したこと自体を忘れてしまったり、個人を特定されないことでそのまま放置されてしまったりするケースもあります。また、予約サイトが複数あることから、どの予約サイトを通して予約したのかわからなくなって放置してしまったということも少なくありません。

突発的な事情でキャンセルができなかった

予約をしたことを覚えていても、突発的な事情からやむをえずキャンセルの連絡ができなかったということも考えられます。身内が急病になった、不幸があった、または本人の事故なども挙げられるでしょう。株式会社TableCheckが2020年に実施した「飲食店の無断キャンセルに関する消費者意識調査」によると、近年の新型コロナウイルス感染症の拡大が影響し、これまで6位だった「体調不良」の理由が2位に浮上しています。突発的な事情が重なって、予約した店舗の営業時間に電話をできる状況ではなかったということも考えられます。

参考:コロナ禍の無断キャンセル理由、「体調不良」が急増。Go To Eatオンライン予約、キャンセル少ない傾向 | 株式会社TableCheckのプレスリリース

キャンセルしたつもりができていなかった

先にも紹介したように、これまでは電話をかけたり、来店したりして行ってきた予約が、ウェブサイトやアプリを通して行えるようになりました。そのため、予約サイトやアプリ上でキャンセルの手続きをしたつもりが操作ミスでキャンセルできていなかったり、予約が完了したにもかかわらず、未成立だと勘違いして、結果的に無断キャンセルとなってしまったりするケースが増えています。

意図的に無断キャンセルした

予約したことをうっかり忘れていたり、突発的な事情で連絡できなかったりするだけでなく、無断キャンセルは意図的に行われる場合もあります。例えば、断りの電話を入れるという行為が気まずいので放置した、予約時の電話での店側の対応が不快に感じたので故意にキャンセルの連絡をしなかった、ということがあげられます。さらには、キャンセルすることで発生するキャンセル料を支払うのが嫌だから連絡しなかった、もともと来店する気はなかったのに予約サイトでのポイント稼ぎのために予約を入れて放置した、という悪質なケースもあります。

無断キャンセルを引き起こしてしまう店側の要因

無断キャンセルが発生する要因は、すべてがお客様側にあるのではなく、店側に要因がある場合もあります。ここでは、無断キャンセルを引き起こしてしまう店舗側の要因について4つ解説します。

無断キャンセルを引き起こしてしまう店側の要因
  • キャンセルポリシーが設定されていない
  • 評判を気にしてキャンセル料金を請求しない
  • 無断キャンセルした顧客を特定できない
  • 無断キャンセルが起こっても対応できない

キャンセルポリシーが設定されていない

キャンセルポリシーとは、顧客からの予約や購入のキャンセルに関して、事業者側が定めるルールのことで、主にキャンセル方法やキャンセル可能な期限、キャンセル料金などが規定されています。そのキャンセルポリシーが設定されていない場合、無断キャンセルにつながることも考えられます。

キャンセル料金については、ホテルや旅館といった宿泊施設では設定していることが多いものの、規模の小さい飲食店や美容室などでは、キャンセル料を設定しているところはそれほど多くありません。キャンセルすることにお金がかかるというペナルティがないことから、安易に無断キャンセルをしてもいいという印象を与えてしまうことも考えられるでしょう。

評判を気にしてキャンセル料金を請求しない

「やむを得ない事情なのにキャンセル料金を請求された」などとSNSなどを通じて顧客が書き込みをすることで、店舗側の評判が下がるのを恐れるあまりに、キャンセル料金を請求しなかったり、無断キャンセルに対して何も対応をしなかったりする店舗もあるでしょう。顧客による口コミは店舗の集客にも大きく影響するため、無断キャンセルによる損失よりも、「お客様を大事にしない店だ」などという悪評が立たないことを気にするケースもあります。

無断キャンセルした顧客を特定できない

予約サイトや自店のウェブサイトを通した予約では、顧客情報の記録を残すことができますが、その顧客のメールアドレスなどの情報そのものが偽装されたものであった場合は、そこから顧客を特定することは難しくなります。また、電話番号やメールアドレスに連絡をしても電話に出なかったり返信してこなかったりする場合、それ以上特定することに時間をかけるのを諦めてしまう場合もあります。

無断キャンセルが起こっても対応できない

無断キャンセルに対して、相手を特定したり、相手へキャンセル料金を請求したりすることを断念する理由には、単に店側がそれに対応できる時間がないという事情もあります。小規模の飲食店や美容室などでは、少ない人員でそれぞれの業務に対応しているため、無断キャンセルの相手の特定やキャンセル料金の請求といったことにまで時間を割くことが難しくなります。そのため、泣き寝入りするしかないということも考えられるでしょう。

無断キャンセルを防ぐ具体的な5つの対策

うっかりや故意などさまざまな理由から発生する無断キャンセルを、店舗側で未然に防ぐにはどのような対策をすればよいのでしょうか。最後に、無断キャンセルを防ぐための対策を5つ紹介します。

無断キャンセルを防ぐ具体的な5つの対策
  1. キャンセルポリシーを設定する
  2. キャンセル連絡しやすい仕組みを作る
  3. 電話やメールで事前確認(リマインド)する
  4. 事前決済や預り金制度を導入する
  5. 回収代行や補償サービスなどを利用する

キャンセルポリシーを設定する

無断キャンセルが起こる店側の要因として、キャンセルポリシーを設定していないことがあげられると先に紹介しました。キャンセルポリシーは予約サイト、自社サイト、SNSなどお客様が確認しやい場所に示しておくことが重要です。

また、予約を受ける際には「予約時間から20分が経過した場合は自動的にキャンセルとなります」のように口頭での説明や明記しておくことで、万が一無断キャンセルとなった場合でも、別のお客様に利用していだき、機会損失をできる限り防げるようにしておきましょう。

さらに、消費者契約のトラブル防止、不当な契約からの保護を目的として、2001年に施行された消費者契約法に則ったキャンセルポリシーを明示することで、損害賠償請求などの助けになります。キャンセルポリシーで設定する項目には下記のようなものがあげられます。

  • キャンセル方法
  • キャンセル可能な期間
  • キャンセル料金が発生するタイミング
  • キャンセル料金の詳細
  • キャンセル料金の請求方法
  • 免責事項(不測の事態などキャンセル料金が不要のケース)

参考:消費者契約法 | 消費者庁

キャンセル連絡しやすい仕組みを作る

「キャンセルの連絡をしたいのに、いつ電話してもつながらない」といったように、顧客が連絡をしにくい状態では、顧客も電話をするのをあきらめてしまい、そのまま無断キャンセルとなる可能性も考えられます。故意ではなく、キャンセルの理由があるのに連絡できないということは、お互いの信用にも関わってくるため、キャンセルの連絡が確実にできるという状況を用意することが重要です。

電話連絡の場合には留守番電話でも受け付けるようにしたり、メールやSNSのDMでもキャンセルができるようにしたりするなど、複数の手段を用意するとよいでしょう。キャンセルの連絡をするという顧客側の謝意に対して気遣いを持つことを意識しましょう。

電話やメールで事前確認(リマインド)する

予約日の前日や2日前などに、顧客に対して電話やメールなどで事前確認(リマインド)を行うことでも、顧客のうっかり忘れを防ぎ、無断キャンセルによる損害を最小限に抑えることが期待できます。リマインドの方法は電話やメール、SNSなど複数の方法がありますが、メールやSNSだけでは、受信に気づかない場合も考えられるため、確実にリマインドを行いたい場合には、メールやSNSのほかに、直接電話をかけるということも取り入れるとよいでしょう。

事前決済や預り金制度を導入する

少しでも多くの無断キャンセルを防ぎたいというのであれば、事前決済や仮払い金、預かり金制度(デポジット)を導入することもひとつの手段といえます。あらかじめ、ある程度の金額を決済することで、顧客のうっかり忘れを防ぎ、もしも無断キャンセルが起こった場合でも事前決済を行うことでキャンセル料金を補うことができます。ただし、無断キャンセルを防ぐためとはいえ、普段利用している顧客に対しても事前決済システムを導入することは、信頼関係にも影響が出てしまう可能性があります。事前決済が一般的ではない飲食店などでは、そういったリスクも考慮しながら検討する必要があるでしょう。

回収代行や補償サービスなどを利用する

飲食業界で近年問題になっている無断キャンセルに対し、キャンセル料の回収代行サービスや予約サイトの補填サービスが登場しています。レストラン予約サイトの「ぐるなび」では、ぐるなびを通じた飲食店のネット予約に対し、無断キャンセルによってキャンセル料を回収できなかった店舗に対して損害を補償する「無断キャンセル保険」を提供しています。

また、弁護士事務所のなかには、無断キャンセルによる損害賠償トラブルのサポートを行っているところもあり、無断キャンセルの追跡に時間や人員をかけられない場合などは相談してみるのもよいでしょう。ほかにも、無断キャンセルを防ぐ予約専用電話番号を作成できるサービスや、無断キャンセルによって廃棄せざるを得ない食品を引き取るサービスなどさまざまな対策があります。自店の状況にあわせて、適したサービスを調べてみるのもおすすめです。

参考:「無断キャンセル保険」の提供を開始 | 株式会社ぐるなびのプレスリリース (2024年1月時点)

まとめ

今回は、無断キャンセルが起こる要因や対策について解説しました。予約されていたにも関わらず、時間になっても連絡もなく現れない無断キャンセルは、機会損失や食材の廃棄など、店側にとって大きな損害となります。しかし、故意ではなくやむを得ず連絡することができなかったなどのさまざまな要因も考えられるため、キャンセルポリシーの設定やリマインダーの実施など、少しでも無断キャンセルを防げるように店側での対策を立ててみてはいかがでしょうか。

記事のURLとタイトルをコピーする