軽食やスイーツなどを販売する屋台は、設備がコンパクトなイメージから簡単に出店できそうな印象もありますが、スムーズに営業を開始するためには出店までにいくつかの手続きが必要です。そこで今回は、屋台を出店するまでに取得すべき資格や必要な届け出、または出店にあたって心得ておきたい注意点について解説していきます。

屋台とは?

「屋台」とは、台(カウンター)のある屋根つきの簡易的な小さなお店のことを指します。おでん屋やラーメン屋など飲食店の形式がよく見られますが、お祭りやイベントの出店などでは食事以外にも商品販売を行う屋台もあります。屋根つきの小さな店舗だけでなく、リアカーや軽トラックを改造した屋台や簡易テントを用いたものもあります。

露店との違い

屋台と似た言葉で「露店」というものがありますが、出店するごとに組み立てる組み立て式の店舗や屋台のことを「露店」と呼びます。
路上や神社・寺社の境内で出店したり、フリーマーケットで出店したりするのも露店のひとつです。先に説明したように、露店とは一時的に構える店、出店のたびに組み立てる店舗のことで、屋根や台がなく、ゴザを敷いただけの場合もあります。
参考:大阪市:露店営業及び臨時出店について (…>食品・衛生に関する情報>市からのお知らせ)

出店との違い

「出店(でみせ)」とはお祭りやイベントに臨時で出すお店のことを指し、基本的には本店を持つお店が臨時的に出店する場合を指します。屋外に限らず屋内で行われるイベントなどにも設置され、イベントを盛り上げます。屋台とは、昔ながらの路上で営業するラーメン屋やおでん屋などのようなひとつの店舗形式を指すのに対し、出店とは臨時でイベントに店を出すという概念的な意味合いとも考えられるでしょう。

屋台を出店するために必要な資格と届出

移動や組み立てが簡単にできる屋台ですが、出店するには資格や届出が必要となります。ここでは屋台を出店するために必要となる資格と届出について紹介します。

食品衛生責任者の資格を取得する

「食品衛生責任者」とは、施設や店舗における衛生管理を行う責任者のことを指し、「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理を求められます。「HACCP(ハサップ)」とは、「Hazard(危害)」「Analysis(分析)」「Critical(重要)」「Control(管理)」「Point(点)」の頭文字を取った略語で、原材料の入荷から製品の出荷までの全工程において食中毒菌汚染や異物混入などのリスクを管理する方法です。また、令和3年の改正食品衛生法施行により、許可や届出の対象となる施設では食品衛生責任者の設置が原則必要となっており、屋台もそれに含まれます。栄養士や調理師などの資格を持っている人は別途取得する必要なく食品衛生責任者になることができます。

参考:食品衛生法の改正について|厚生労働省

自治体の営業許可を取得する

屋台で飲食物の調理・販売を行う際には自治体の営業許可を得る必要があります。経営計画や設備が衛生面などで安全性を保てるか、それらが一定の基準を満たしているかということが地域の保健所が確認できたうえで発行されます。営業許可申請には、自治体によって異なる手数料がかかり、どのような飲食物を提供するかによっても必要な許可は異なるため、自治体へ事前に確認する必要があります。

屋台出店までの流れ

屋台を実際に出店するまでには、自治体や保健所を通じていくつかの手順を踏むことが必要となります。ここでは屋台出店までの流れを説明します。

屋台出店までの流れ
  1. 衛生講習会の受講
  2. 出店予定地を管轄する保健所に事業内容を相談
  3. 保健所へ営業許可を申請する
  4. 保健所による設備のチェックを受ける

衛生講習会の受講

屋台を出店するために必要な資格の項目でも説明したように、まずは食品衛生責任者の資格取得が必要となります。そのため、各自治体などで行われる食品衛生責任者講習会を受講しなければなりません。講習会では、「食品衛生学」「公衆衛生学」「食品衛生法」を学び、学んだ内容を理解できたかを調べるテストも行われます。受講費用はおよそ1万円前後ですが、受講方法や申込先も含めて各自治体によってことなるため、事前に確認をしましょう。なお、すでに栄養士や調理師などの有資格者はあらためてこの講習会を受ける必要はありません。

参考:食品衛生管理者|厚生労働省

出店予定地を管轄する保健所に事業内容を相談

事業内容が具体化してきたら、まずは出店を予定する地域を管轄する保健所へ、屋台開業の意向や出店する許可条件などについて相談しましょう。屋台などの店舗を保健所へ相談しないままで完成させてしまうと、あとから保健所から指摘を受けた場合に修正がきかなくなってしまいます。

保健所とは、管轄地域の飲食業に関する衛生管理を担当している組織であり、屋台についても出店に必要な手続きや必要な許可、守るべきルールなどのアドバイスをしてくれます。出店後の新メニューの考案や屋台の改築が必要な際にも助言をしてくれるので、開業時点から保健所とはつながっておくことがおすすめです。

保健所へ営業許可を申請する

管轄の保健所へ屋台出店の相談を行ったあとは、いよいよ営業許可の申請を行います。申請に必要な主な書類は「営業許可申請書」「設備概要・配置図」、そして講習会で取得した「食品衛生責任者証(もしくはそれに準ずる資格証明書)」です。あとは申請に必要な手数料、押印の際に必要な認印も持参しましょう。営業許可申請は、屋台完成の10日前までに必要であり、衛生管理体制などに不備がある場合は営業許可がおりない場合もあるので注意しましょう。

参考:営業規制(営業許可、営業届出)に関する情報|厚生労働省

保健所による設備のチェックを受ける

屋台が完成し、必要書類の提出が完了したら、保健所による施設検査があります。調理器具の清潔度、食材の保管状況といった衛生管理体制をチェックします。営業許可申請の際に提出した図面では指摘を受けなかったという場合でも、このチェック時に基準が満たされていないとわかると営業許可はおりません。そのため、保健所には事前に事業内容を相談しておく必要があるのです。この施設検査に合格して、最終的に営業許可証が交付されることになります。

出店した屋台で販売できる商品は取得する許可によって異なる

自身が営業する屋台でどのような飲食物を販売するかによって、取得が必要な営業許可が異なります。ここでは、主に屋台での販売が想定される3つの種類の営業許可について紹介します。

出店した屋台で販売できる商品は取得する許可によって異なる
  • 飲食店営業許可
  • 菓子製造業許可
  • 喫茶店営業許可

飲食店営業許可

「飲食店営業」とは、一般的な飲食を提供する店舗を開業する際に必要な許可です。屋台であれば、唐揚げや焼きそばなどのメニューはこの飲食店営業許可証が必要になります。この飲食店営業許可証を取得すると、屋台で調理した料理の提供ができるようになり、さらに午前0時までであれば酒類も提供が可能です。

菓子製造業許可

「菓子製造業」とは、一般的に菓子の完成品とされている食品を製造することを指し、たい焼きや焼きドーナツ、ワッフルなどのスイーツ系メニューを提供するには菓子製造業許可が必要となります。ただし、製造する菓子が同じであっても営業形態の違いで必要な許可が変わり、商品をテイクアウトではなく店頭で食べてもらうという場合には「菓子製造業許可」だけでなく「飲食店営業許可」が必要となることもあります。自店に飲食店営業許可が必要かどうかというのが曖昧であれば、事前に保健所へ相談するとよいでしょう。

喫茶店営業許可

「喫茶店営業許可」は、喫茶店をはじめ、設備を設けて酒類以外の飲みもの又は菓子を提供する際に必要な許可ですが、令和3年の改正食品衛生法施行により、「飲食店営業許可」と「喫茶店営業許可」は飲食店営業許可に統合されました。喫茶店営業許可で営業中の屋台は、新たに飲食店営業許可を取得することが必要となり、現在経過措置期間ではあるものの、期間中に申請が間に合うよう、新規届け出に必要な準備を進めておきましょう。

参考:厚生労働省ホームページ(営業届出制度の創設と営業許可制度の見直し)

屋台を出店する際に注意すべきポイント

許可申請や屋台設備の準備が整ったら、いざ開店したときにスムーズに進められるよう、気をつけなければならない点をおさえておきましょう。最後に、屋台出店時に注意すべきポイントについて説明します。

屋台を出店する際に注意すべきポイント
  • 食品の扱い方に注意する
  • 屋台では仕込みができない
  • 消火器やゴミ箱を設置する

食品の扱い方に注意する

屋台で飲食店を出店する場合、食品によっては扱い方に制限があるため注意が必要となります。例えば、次の項目でも紹介しますが、屋台では営業前の「仕込み」が基本的にはできません。また、地域によっては非加熱のものや生クリーム、フルーツ、生野菜といったものを使ったメニューが制限されており、フルーツの盛り付けや果汁を絞ることも禁止されています。また、洗浄設備などの充実度の違いにより扱えるメニューが変わることから、自店でどのメニューを提供したいか、その場合にはどのような設備が必要かということを事前に細かく確認しておきましょう。

屋台では仕込みができない

屋台の出店の場合、メニューに制限があるだけでなく、調理の仕方にも制限があります。衛生上の問題から、営業前などに屋台で食材を切るような仕込み作業ができません。そのため、飲食店営業許可を取得した別の調理場で仕込みを行って、屋台に食材を持ち込む必要があります。そのため、出店地域に仕込み用の物件を借りるか、もしくは他の飲食店のキッチンを借りて仕込みを行うなど、仕込みの方法を考えなくてはなりません。

ただし、令和3年の改正食品衛生法施行により、異なる設備基準の統一が行われ、屋台での仕込み場所と販売場所の自治体が異なる場合でも、それぞれの保健所の許可を得る必要がなくなっています。自店があてはまるかどうか、管轄の保健所に確認してみましょう。

参考:厚生労働省ホームページ(広域的な食中毒事案への対策強化)

消火器やゴミ箱を設置する

イベント時の出店からの火災が原因で死亡事故が発生したことから、自治体によっては屋台の開設届を消防署へ提出することを求められる場合や、消防署では業務用の消火器の設置を指導する場合もあります。複数の出店があるイベントの場合はイベント主催者が届け出を行いますが、消火器設置が条件となることもあるため、準備をしておくとよいでしょう。また、衛生面や周辺へのポイ捨て防止のためにも、ゴミ箱の設置も心がけましょう。

まとめ

今回は、屋台出店のために必要な資格や届け出についてと、注意すべきポイントについて解説しました。簡易的に組み立てられる屋台ですが、販売する商品によって必要な資格や届け出は異なります。営業許可を申請してから指摘されるのを避けるためにも、事前に管轄の保健所に事業内容を相談して、スムーズな出店を目指してみてはいかがでしょうか。

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